誰が為に。

目の前の扉の向こうに「もし凶悪な怪物が潜んでいたらどうしよう」と怯えて、立ち止まってしまいました。

 

その扉を開ける勇気がなく、座り込んでしまいました。

 

震えが止まらず、ついには動くこともできなくなり、

 

食べることも、寝ることも、泣くことも、笑うことさえできなくなりました。

 

 

足音が聞こえてきました。

 

だんだん近づいてくる。

 

その足音が僕のそばで止まりました。

 

 

どれぐらいの時間が経ったのだろう...

 

 

「そんなところで何をしてるの?」

 

「何でもないよ」

 

「この扉の向こうに、もし怪物がいたら怖いなって...」

 

「そう思うと、これ以上動けなくて...」

 

「そうなんだ...」

 

 

『ガチャ』

 

 

扉を開けました。

 

 

「...怪物は?」

 

「何もいないよ。何もない。自分の中で作り出した怪物のせいで動けなかっただけなんだよ」

 

 

勇気をくれてありがとう。

 

 

僕を救ってくれて、

 

 

ありがとう。

 

 

 

 

 

民明書房刊『その花が咲かない理由』より